遺影をどこに、どのように飾るか──。
それは、単なる「写真の置き場所」を決める話ではありません。そこには、残された家族の想い、日々の生活のリズム、時に胸の奥をよぎる故人への感謝や後悔、そういったいくつもの感情が織り交ぜられています。
実際、私自身も親しい人を亡くした経験があり、遺影をどこに飾るかで、ふと手が止まったことがあります。何気ない行為の中にも「正しい方法」や「その家らしさ」が現れるものなんですね。今回は、現代の暮らしや気持ちに寄り添いながら、遺影の飾り方について深く考えていきます。
まず最初に知っておきたいのは、四十九日までと、それ以降で、飾る場所や意味が大きく変わるということ。
日本の多くのご家庭では、葬儀後すぐ、遺骨と一緒に遺影を「後飾り祭壇」に安置します。これは、いわば「最後の別れ」の延長線上にある、大切な時間。家族が静かに手を合わせ、故人との思い出に思いを馳せる──そんな空間が、後飾り祭壇なのです。
四十九日。仏教においては、魂がこの世を旅して極楽浄土へ向かう区切りともされる日。この日を境に、遺影は新たな場所へと移されるのが一般的です。
では、四十九日が過ぎた後、遺影はどこに飾るのが「正解」なのでしょうか。
よく「仏壇の中やその上は避けた方が良い」と言われます。仏壇の中には、ご本尊(仏様や仏画など)が祀られているからです。故人を敬う気持ちから見ても、ご本尊の場所を侵したり、見下ろす形になったりするのは、どこか失礼にあたるような気がしますよね。ですので、仏壇のすぐそば、あるいは仏間の壁など、故人が家族をそっと見守ってくれるような場所に置くのが理想的です。
しかし現代の住まいは、昔ながらの仏間がないお宅も多いでしょう。その場合、和室やリビングの一角に遺影を飾ることも増えています。日常の中で自然に故人を思い出せるような、心安らぐスペースを見つけてみてください。
遺影を飾る「方角」についても、よく質問されます。昔から東向きや南向きが縁起が良い、とされてきました。けれども、これはあくまでひとつの目安にすぎません。無理に方角にこだわって、生活動線や家族の居心地が悪くなってしまっては本末転倒です。何よりも大切なのは、家族みんなが自然に手を合わせられる、そんな「我が家だけの場所」を見つけること。例えば、朝食をとるダイニングのそばや、子どもたちが遊ぶリビングの本棚の一角など、ふとした瞬間に視線が合う、そんな場所も素敵だと思いませんか?
また、遺影を長く飾るには、いくつか注意したいポイントもあります。湿気の多い場所や、直射日光が当たる場所は、写真が色褪せたり、フレームが傷んだりしやすくなります。つい忘れがちな点ですが、「いつまでも綺麗なまま残したい」という家族の願いを叶えるためにも、置き場所の環境には少し気を配ってみてください。
風水を気にされる方なら、玄関は避けた方が良い、といったアドバイスもあります。ですが、迷ったときは「家族の気持ち」を最優先に考えてみてください。形式や伝統も大切ですが、心地よさはそれぞれ違うもの。無理に「正解」を探さず、あなたの家族にとっての「しっくりくる場所」を大切にしましょう。
ここで少し、私自身の体験を交えさせてください。大切な祖母を見送った後、家族で「遺影をどこに飾ろうか」と話し合ったことがありました。仏間がない我が家では、最初はリビングの本棚の上に置いてみたのですが、毎日のように祖母の笑顔と目が合ううち、家族が自然と手を合わせるようになりました。朝食の前、出かける前、何気ないひとときに「おばあちゃん、行ってきます」「今日もありがとう」と声をかけることで、祖母の存在を今も身近に感じられています。家族の誰もが、遺影を「重たいもの」「寂しいもの」とは感じませんでした。むしろ、日常の中でさりげなく故人を想う、それが大きな心の支えになったのです。
一方で、「飾るのがつらい」「どうしても悲しくなってしまう」と感じる方もいるでしょう。それは、まったく悪いことではありません。むしろ、そうした気持ちこそが自然で、人間らしいのだと思います。無理に飾る必要はありませんし、時が来るまでそっとしまっておいても良いのです。大切なのは、「こうしなければならない」と自分を縛りすぎず、あなた自身や家族の心に素直になることではないでしょうか。
さて、遺影を飾ることの意味について、もう一歩踏み込んで考えてみます。
私たちが遺影を見るたびに心のどこかが温かくなったり、逆に胸がきゅっと締め付けられたりするのはなぜなのでしょう。遺影は、単なる「思い出の写真」ではありません。その人が生きていた証、家族と過ごした時間の象徴、今も自分たちの中で生き続けているという「絆」の証でもあるのです。
実際、現代の社会は忙しく、家族全員が集まる時間も減ってきています。そんな中で遺影があることで、たとえば小さな子どもたちが「この人はだれ?」と尋ね、家族の歴史や想い出話が自然と生まれる──そんな場面も珍しくありません。遺影は、世代を超えて家族をつなぐ「語りかける存在」なのだと思います。
さらに、最近は遺影写真の在り方も少しずつ変わってきています。かつては「和装で正面を向いて真面目な顔」が主流でしたが、最近は自然な笑顔や趣味を楽しむ姿、カジュアルな服装で撮ったものを使う方も増えてきました。遺影のイメージが「かしこまったもの」から「その人らしさ」を表現するものへと、確実に変わりつつあります。だからこそ、飾る場所や向きにも決まりはなく、「家族が心からほっとできる空間に、その人らしさが溶け込むように」置いてあげるのが、何よりも素敵な選択だと思うのです。
もちろん、「これが正解」という絶対的なルールはありません。時代や価値観の変化、そして家族のカタチは、千差万別です。葬儀社やお寺の方から「こうした方が良いですよ」とアドバイスを受けたら、参考にしつつも、最終的にはご自身やご家族の気持ちを一番に考えてください。